クルシュ・カルステン
Crusch Karstenカルステン公爵家当主にして王選有力候補。『風見の加護』や『百人一太刀』、フーリエ王子への生涯の愛、そして過酷な運命に翻弄される軌跡を徹底解剖。
キャラクタープロファイル:クルシュ・カルステン
ルグニカ王国が誇る公爵家当主にして、次代の王を決める王選の「最有力候補(大本命)」と目されていた傑物。気高き理想を掲げ、剣の腕前とカリスマ性で多くの民や家臣を魅了しながらも、魔女教の悪意に翻弄され、やがてルグニカ王国最大の「逆賊」へと変貌していく悲劇の女傑。
1. 基本プロフィール
- 氏名: クルシュ・カルステン
- 役職: カルステン公爵家当主、ルグニカ王国王位継承候補者
- 外見特徴:
- 深い緑色の長い髪、凛々しく怜悧な美貌。
- 普段は自らを律するために男装(軍服めいた装い)を好むが、化粧を施しドレスや浴衣を身にまとった姿は誰もが目を奪われるほどに艶やかで美しい。
- 左目の変貌(龍の眼): 第十章以降、神龍教会の治療(秘蹟)の代償として、左目が爬虫類のように縦に瞳孔の裂けた金色に輝く『龍の眼(龍眼)』へと変貌し、普段は大きな眼帯で覆っている。
- 言動・特徴:
- 誠実、高潔、公明正大という言葉をそのまま体現したような人物。己の魂に恥じない生き方を何よりも重んじる。
- 基本的には峻厳で妥協を許さない性格だが、記憶を失っていた時期(四章〜九章)は、かつての鋭さが潜められ、令嬢としての柔らかな無防備さや、時折スバルをからかうような可愛らしい「ギャップ」を見せていた。
- 加護: 『風見の加護』
- 相手の周囲を取り巻く目に見えない「風」を視覚的に捉える能力。
- これにより、対面している人物の感情の揺らぎや、発言が「嘘」であるか「真実」であるかをおおよそ完全に見抜くことができる。外交や交渉の場で極めて強力な反則級の力を発揮する。
2. 彼女の魂を形作る「美学と信念」(内面の深掘り)
クルシュ・カルステンという人物の本質は、単なる政治的・軍事的な有能さではなく、彼女が抱く独自の美学と厳格な人間哲学にあります。
① 「魂を最も輝かせる姿」を重んじる徹底した美学
クルシュの根本的な行動規範の一つに、「そのものにはそのものの魂を最も輝かせる姿が与えられるべきだ」という強い信念があります。
- フェリスの女装を認める器:
フェリスが従者に相応しくない可愛らしい女装をしていることに対し、保守的な近衛騎士や文官たち(リッケルトなど)から「相応しい格好(甲冑など)をさせるべきだ」と苦言を呈された際も、クルシュは「騎士甲冑を着せるより、よほどフェリスには今の格好が似合う。私がドレスを着るよりも、こちらの格好(男装)を好むように」と跳ね除け、彼の自由意思と個性を全面的に肯定・尊重しています。他者に対しても、その者が最も自尊心を持ち、輝ける在り方を守ることを最上位に置いています。
② 『風見の加護』と彼女の交渉哲学
相手の嘘を風として見抜く強力な加護を持つクルシュですが、彼女は自身の能力を万能の欺瞞暴きツールとして過信しているわけではありません。
- 付き合いの長いフェリスや、老練な賢人会のマイクロトフのように、「長年の経験則や信頼関係、あるいは高度な話術や感情の制御によって、吹き抜ける感情の風を煙に巻き、意図的に隠すことができる熟達者」がいることも理解しています。
- 加護を絶対視せず、対等な交渉術のカードとして謙虚に割り切っており、相手を一方的に見下すのではなく、誠実に向き合うための補助線として用いています。
③ 弱さと「罪」の定義
彼女は強者であることを自らに課していますが、他者の弱さに対して無慈悲なわけではありません。
- スバルの醜態を目の当たりにした際、彼女は「弱さが罪である、とまで私は言わない。もっとも、弱いままでいることを是として、それを正さずに現状に甘んじることが罪である、ということには同意見だが」と語っています。
- 現状に妥協し、立ち上がろうとしない精神の「停滞」や「怠惰」こそを罪とみなし、どれほど無様であっても「己の魂に恥じない生き方」を貫こうとする意志(たとえ実力が伴わずとも)には敬意を払います。
④ 決別の日すら見据えた「公の誠実さ」
エミリア陣営と同盟を締結した際、スバルから「いつか敵対することになっても、それまでは仲良くやろう」と言われたのに対し、クルシュは厳しく首を横に振りました。
- 「雌雄を決する機会がきたとしても、私は卿に対して友好的であろう。いずれ必ず来たる決別の日にあっても、今日の日の卿への恩義を私は忘れまい。故に敵対するときがきたとて、私は卿に最後まで敬意を払い、友好的である」と断言しています。
- 政治的対立と、個人の魂への敬意や恩義を完全に両立させる、彼女の並外れた精神的高潔さを示す象徴的なエピソードです。
3. クルシュと第四王子フーリエの悲恋:公約の最深部に眠る「生涯唯一の愛」の真実
クルシュの行動理念の最深部には、亡きルグニカ王国第四王子「フーリエ・ルグニカ」への深く、切ない愛が息づいています。
① 幼少期から生前にかけての関係:すれ違う不器用な恋心
同い年だった二人は、カルステン公爵家の令嬢と孤独な王子という身分を超え、幼少期から深い絆で結ばれていました。
- フーリエはカルステン家を頻繁に訪れては、無理難題や支離滅裂な問題を持ち込んで彼女を困らせていましたが、その真意は「好ましく思っている少女の気を引きたい」という非常に不器用な片想いでした。当時のクルシュはその真意にまでは気づいていませんでしたが、彼の心優しく、善良で熱意ある人柄を「人間として憎からず思って」いました。
- 彼が「黒蛇の邪舌」とされる死病に侵され、病床に伏した際、彼の衰弱していく姿はクルシュの心を激しく苛みました。
② 第十章での決定的な告白:記憶を取り戻したクルシュが明かした「好きな人」
記憶を奪われていたクルシュが、神龍教会の秘蹟によってそれを取り戻した際、彼女の心はフーリエへの鮮烈な想いで満たされていました。
- 彼女は心の中で、衒うことなくこのように独白しています。
「何の衒いもなく告白しよう。――フーリエ・ルグニカが、好きだった。出会った日から今日に至るまで、一度としてその想いが揺らいだことはない」
- フーリエにどんな言葉をかけられ、どんな時間を過ごし、どんな悲劇に心を引き裂かれようとも、彼への好意が揺らいだことは一度もありませんでした。二人は間違いなく、言葉にせずとも魂の奥底で深く結ばれた、お互いにとってかけがえのない真実の絆を持っていました。
③ 従者フェリスが見守り続けた二人の距離
主従であるフェリスは、誰よりも長く、最も近い距離でフーリエの秘めたる想いと、クルシュが彼に寄せる好意を見守り続けていました。
- 後にエミリアから「二人は好き同士だったの?」と尋ねられた際、フェリスは「そんなの、私の口から言えませんよ。――無粋すぎますもん」と答えており、二人の愛の不可侵さと神聖さを誰よりも尊重していました。
4. 主従を超えた約束:剣鬼ヴィルヘルムとの誓い
クルシュと「剣鬼」ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアとの主従関係は、単なる戦力の雇用ではなく、魂の曇りを救い合う美しい相互救済の形です。
① 復讐に縛られ、曇る「剣鬼」への落胆と哀れみ
妻(テレシア)を白鯨に奪われ、復讐のために十数年を費やしていたヴィルヘルムと出会った際、クルシュは彼の放つ圧倒的な「怒り」を感じ取っていました。
- しかし同時に、彼女は「生き方に定めることと、縛られることとは似ているようで本質が異なる。……生き方に縛られる剣鬼が哀れでならなかった」と、魂の曇りを深く悲しんでいました。耐え難い憤怒に心を焼かれ、往年の鋭さを尖らせながらも刃を怒りで曇らせているヴィルヘルムの在り方を、彼女は「口惜しい、もったいない」と感じていたのです。
② 主として提示した「魂の解放」
彼女がヴィルヘルムを自身の陣営に迎えたのは、白鯨を討つための「最強の剣士」が欲しかったからだけではありません。
- 「己の魂に恥じない、私を魅せる本当の卿の姿だ。剣鬼ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアのその姿をこそ、私は求める。それ以外、私が望むものはない」。
- 彼に白鯨を斬らせ、その勝鬨を自分に上げさせることで、彼を復讐の呪縛から解放し、もう一度「ヴィルヘルム」としての魂の輝きを取り戻させることこそが、彼女が主として彼に提示した最大の「救い」であり「誓い」でした。
5. 魔術・戦闘能力
公爵家当主としての政務に優れるだけでなく、自ら前線に立って戦う一級の武人。
- 剣技:『百人一太刀(ひゃくにんいったち)』
- 風の魔法と剣技を高度に融合させた、クルシュの代名詞たる超級斬撃。
- 手にした細身の剣を振り抜くことで、射程距離を完全に無視した「目に見えない無形の風の刃」を放ち、遠距離の敵を撫で切りにする。
- かつてカルステン領に魔獣『大兎』の配下が出現した際、平原にてそれらを殲滅し、凄まじい戦果で初陣を飾ったことからこの異名がついた。白鯨の強固な皮膚すら切り裂く威力を誇る。
- 土の加護が刻まれた甲冑:
- 戦闘時に着用する薄手の鎧。各関節部分が空いており動きやすさを極端に重視しているため、一見すると防御力に不安があるが、土の加護が刻まれており、クルシュ自身のマナが尽きない限り見た目以上の頑健さを発揮する。
- 『龍の眼(龍眼)』の異能(第十章〜):
- カペラの龍の血による邪毒を、神龍教会の秘蹟で相殺した結果、左目に宿った超常の力。
- 生き物としての次元の違い(龍の階層)からくる圧倒的な威圧感を発するだけでなく、魔法が発動する前(マナが指向性を与えられる前)の構成や、物事の「極点(死穴)」、力の流れを完全に視覚的に捉えることができる。
- この眼により、相手の魔法が完成する前に剣で術式を切り裂いて無効化する神業(魔法潰し)を可能としたが、使用に伴う精神と肉体への負荷は凄まじく、極度の消耗から泥のような深い眠りに落ちてしまう副作用を持つ。
6. 王道と「悲願」:龍との盟約からの脱却
クルシュが王選において掲げた最大にして唯一無二の公約、それは「親竜王国ルグニカからの脱却(龍との盟約破棄)」である。
- 「龍がいなければ滅ぶのであれば、我々が龍になるべきだ」
- ルグニカ王国は四百年間、神龍ボルカニカとの盟約によって戦乱、病魔、飢饉などのあらゆる苦難から救われ、繁栄を続けてきた。
- しかし、クルシュはその在り方を「盟約に甘え、堕落し、思考を停止している。恥ずかしいと思わないのか」と激しく否定する。
- 「恵まれすぎることは停滞を生み、堕落へ導き、終焉をもたらす」という信念のもと、龍に頼り切ってきたすべてを王・臣・民が背負い、自分たちの力で立つ国を作ることを目指した。
- 公約の背景にある「個人的な怒り」
- ルグニカ王家が謎の病(黒蛇の邪舌とされる病魔)によって断絶した際、フーリエ王子はクルシュに手を握られながら看取られて逝った。
- この未曾有の国難において、王国の重鎮や人々は、愛される王族たちの死を悼むことよりも、それによって「龍との盟約が途絶えること(龍からの加護が得られなくなること)」を何よりも恐れ、醜く取り乱した。
- この「命の軽視」と「龍への醜い依存」を目の当たりにしたクルシュは、激しい不快感と失望(そして、自分自身もフーリエと出会っていなければ同じように考えていたかもしれないという自己嫌悪)を感じ、猛烈な怒りを覚えた。
- フーリエ王子の死をただの悲劇(無駄な犠牲)で終わらせないために、彼の墓前に「龍の力を借りずとも、人々が心から王族の死を悼み、自らの力で歩んでいける強い国にする」と誓いを立て、王として玉座を目指すことを決意した。
7. 苦難と悲劇の軌跡(時系列)
第三章(白鯨討伐と対立同盟)
- 王選開始当初、カルステン公爵家の歴史と彼女自身の才気から、圧倒的な大本命として支持を集める。
- 交渉の場において、ナツキ・スバルの持つ「白鯨出現の未来の情報」と「携帯電話(魔物警報機)」の価値を認め、エミリア陣営との同盟を締結。
- 白鯨討伐戦を主導。これは、夫の仇を狙うヴィルヘルムのためだけでなく、「龍の盟約に頼らずとも、人間自身の力で世界を脅かす三大魔獣を打破できる」という自身の王道を証明するための宣戦布告であった。討伐は見事に成功し、彼女の王位は盤石になったかに思われた。
『強欲』と『暴食』による襲撃
- 白鯨討伐からの凱旋の道中、魔女教大罪司教『強欲』レグルス・コルニアスと『暴食』ライ・バテンカイトスに急襲される。
- レグルスの権能によって左腕を切り落とされ、ライによって「記憶」を喰われる。
- 一命は取り留めたものの、目覚めた彼女は、かつての知性、フーリエ王子との約束、王選への理想をすべて忘れた「記憶喪失」の状態となり、一時的に王選の表舞台から精彩を欠くこととなった。
第五章(水門都市プリステラと『色欲』の龍の血)
- 記憶を失い、令嬢としての優しさが前面に出るようになってなお、その魂の高潔さは失われず、スバルたちの『暴食』打倒への意志に共感して情報提供と協力を惜しまなかった。
- プリステラが魔女教に占領された際、スバルと共に都市庁舎の放送室へ突入し、大罪司教『色欲』カペラ・エメラダ・ルグニカと交戦。
- 一度はカペラを窓から放り投げるものの、変異能力を持つカペラの前に敗北。胸骨を軋まされるなど甚大な暴行を受ける。
- カペラによって「龍の血(邪毒)」を体内に流し込まれ、黒い血管が体中をのたうつ呪いに侵される。激痛と高熱にのたうち回る凄絶な苦しみを受ける。
- スバルが接触することで呪いの一部を引き受ける(スバルの右足と右手が黒く染まる)が、クルシュ自身はこれ以上のスバルの自己犠牲を拒み、「あとのことは全部、俺に任せておけ」というスバルの言葉を信じて苦痛に耐え続ける選択をした。
第十章(神龍教会の介入と、王選最大の敗北)
- スバルたちがプレアデス監視塔で手がかりを探し、フェリスたちが王都で治療法を模索する中、突如として『神龍教会』が介入。
- 神龍教会が派遣した、15年前に行方不明となった王女と同じ名を持つ金髪赤目の修道女「フィルオーレ・ルグニカ」がカルステン邸を訪問。彼女が施した門外不出の「秘蹟」により、クルシュを苦しめていた龍の血の邪毒は完全に消え去り、肉体は回復する。(治療時、治療を施したフィルオーレが激しい疲労から「このくらい、ちょろいわ」と本音(地)を漏らし、慌てて「当然のことです」と言い直している)。
- しかし、これは政治的に「王選候補者としての完全な敗北(脱落)」を意味した。「龍からの脱却」を公約に掲げていた彼女が、よりにもよって龍を奉ずる教会の力(秘蹟)によって救われてしまったからである。
- さらに、秘蹟の恩恵によりクルシュはすべての「記憶」を取り戻す。フーリエ王子との誓い、王選への理想、そのすべてを思い出す。
- だが、記憶が戻った彼女を待っていたのは、絶望だった。「誓いを守るため、どれほど苦しくても龍の力にだけは頼るべきではなかった」と考える彼女にとって、一の騎士であるフェリスたちが龍の力(神龍教会)を頼って自分を救った事実は、自分とフーリエ王子の誓いに対する裏切りであり、深い自己嫌悪とフェリスへの怒りを生む。
- 同時に、戦闘時の偶発的な事故(第七章のエルギーナ戦における魔封石の指輪の爆発事故)によって右腕を失いながらも、結果的に『新品の右腕が生え変わる』形で自力で邪毒の紋様を克服したスバルの境遇に対し、龍を奉ずる教会の力に頼らざるを得なかった自らの無力な選択を比較して、深い劣等感と消え入りそうな声での「ズルい」という呟きをもらす。
- 【補足:フェルトによる「フィルオーレ」の演技】
- なお、これより以前のアルデバラン一味に同行していた時期(第九章)、王選候補者のフェルトは『暴食』のロイ・アルファルドに『記憶』を喰われたフリ(演技)をする密約を交わしていた。
- その際、フェルトは周囲を騙すために「知りもしない王族、フィルオーレ・ルグニカ」を即興で演じており、そのモノマネのモデルとして「記憶を失っていた時期のクルシュの喋り方や態度」を参考にしていた。このフェルトの演技(欺策)と、王都で本物の修道女フィルオーレがクルシュを救った出来事は全く別のものである。
『逆賊』としての凶行
- 絶望と混乱、それによる精神の摩耗に苛まれたクルシュは、王選の背景に隠された『竜歴石』の予言の隠蔽や、神龍教会と結託して自分を王選から陥れようとしたとして、賢人会の長である「マイクロトフ・マクマホン」を『逆賊』と断定する。
- 彼女は単身でマクマホン邸に突入。
- マイクロトフ・マクマホンおよび、屋敷にいた関係者十三人をその手で直接斬り伏せ、暗殺する。
- 駆けつけたスバルに対し、自らの手を血に染め、左目の『龍眼』を剥き出しにしながら「マクマホンは王国に仇なす逆賊だ、だから斬った」と告げた。
8. 他キャラクターとの関係性
- ナツキ・スバル
- 王選開始当初は彼の「狂気と欺瞞(死に戻りによる空回り)」を鋭く見抜いて突き放したが、同盟締結後は互いの実力を認め合う戦友となった。
- 記憶喪失後も、自分のために傷だらけになって戦うスバルに深い信頼を寄せ、龍の血の呪いを引き受けようとするスバルを「あなたは今、私以外の人に必要な方だから」と制止した。
- しかし、記憶が戻り、自らが『逆賊』となった後は、五感や魔術を封じられても戦い続けるスバルの「異常なまでの強さ」と、偶発的な事故の末に『生え変わった右手』によって黒い紋様から解放された境遇に対し、「ズルい」という暗い本音(劣等感)を漏らしている。
- フェリックス・アーガイル(フェリス)
- クルシュが絶対の信頼を置き、フェリスもまた「クルシュ様のためなら世界を敵に回してもいい」と誓う、共依存に近い強固な主従関係。
- しかし、クルシュが苦しむ姿に耐えかねたフェリスが、主の思想を無視して『神龍教会』の秘蹟に頼って彼女を救ったことで、二人の関係には修復不可能な亀裂が入る。クルシュはフェリスの行動を「殿下との誓いを踏みにじる真似」と激しく非難し、フェリスを騎士から罷免する。フェリス自身も「自分のエゴで主の誓いを踏みにじった」という深い失望と罪悪感に苛まれている。
- ヴィルヘルム・ヴァン・アストレア
- 妻の仇である白鯨を追う彼に救いの手を差し延べ、討伐の機会を与えた大恩人。ヴィルヘルムはクルシュの「魂そのものの輝き」に魅了され、彼女を王にするために全霊を捧げてきた。彼女が逆賊としてマイクロトフを殺害した後も、「ご本人の口から真意を聞くまでは勝手に決め付けない」と、その忠義を揺らがせていない。
- フーリエ・ルグニカ
- かつて深く愛し、相思相愛だった第四王子。彼の死と、それを巡る周囲の「龍への依存」が、クルシュのすべての行動理念(龍との盟約破棄)を生み出した。彼への愛と誓いこそが、記憶を失っても彼女の魂に残り続けた輝きの正体であり、それだけに『神龍教会』によって救われた現実に彼女の心を粉々に引き裂いた。
- フェルト / ティーガ・ラウレオン / フィルオーレ・ルグニカ
- フェルト:
- 王選候補者であり、もう一人の「15年前に失われた王女(フィルオーレ・ルグニカ)」の本物候補。神龍教会が派遣した修道女フィルオーレが王城で竜珠の徽章を光らせたことで、どちらが本物かを見極める必要に迫られるが、フェルト自身は出自の優位に頼る気は最初からなく、非常にサバサバとした態度を貫いている。
- ティーガ・ラウレオン:
- 『神龍教会』からサクラと共に派遣された使者。フェルトの騎士ではない(フェルトの騎士はラインハルトである)。
- 独断でカルステン邸に向かいクルシュを治療したフィルオーレを連れ戻すためにサクラと共に王城へ駆けつけた。
- その後、スバルらと共にマイクロトフ・マクマホン邸を訪れた際、すでにクルシュによってマイクロトフや使用人たちが斬り伏せられた惨状の中で彼女と遭遇し、交戦。スバルが展開した魔法無効化結界『E・M・T』が機能する中、元より魔法を使わないティーガは、結界の影響を受けずに得意のシャムシール(曲刀)による鋭い剣撃でクルシュに肉薄し、制圧を試みた。
- フィルオーレ・ルグニカ:
- 神龍教会の修道女(聖女)であり、行方不明の王女と同名で、金髪赤目の特徴と徽章を光らせる巫女の資格を持つ。
- 『色欲』の邪毒に苦しむクルシュを放っておけず、教会の意向(存在の隠蔽)を無視して独断でカルステン邸に駆け込み、自らの「秘蹟」でクルシュを救った。
- 見た目の大人っぽさに反して、世俗から隔離されて育ったため、中身は非常に子どもっぽく感情に振り回されやすい「箱入り娘」。王選への参加要請に最初は現実逃避してエミリアに縋り付いて泣きついていたが、エミリアに諭されて覚悟を決めた。
9. お茶目なギャップと日常の裏設定(原作者トークショー・日常エピソードより)
峻厳で気高く、隙のない女傑に見えるクルシュですが、実は非常に素直で、世俗に少し疎いゆえのお茶目で愛らしいギャップを多々持っています。
① フェリスのついた「おまじない」の嘘を信じる素直さ
クルシュは、白鯨戦のような大きな戦いや大事な交渉の前に、「手のひらに『敵』と書いて飲み下し、相手を逆に飲み込む」という、現代日本でもよくある迷信を真剣に頼りにして、心の迷いを払っていました。
- しかしこれは、かなり前にフェリスが彼女を元気づけるために「適当に教えたおまじない」でした。
- スバルの前でフェリスが「あれ、フェリちゃんが適当に教えたやつですよ」と暴露した際、クルシュは「なに……嘘、だったのか?」と驚きつつも、フェリスが「お力になれて嬉しかった」と言うと、「そうか、私を思ってのことか。なら許す」とあっさり許してしまうという、非常に素直で愛らしい一面を見せています。
② 加護喪失時の「下心」発言への戸惑い
記憶(と『風見の加護』の制御力)を失っていた第五章当時、プリステラでの温泉の後に浴衣姿になった際、スバルから「フェリスはクルシュにベッタリだけど下心はない」と言われたのに対し、フェリスが「フェリちゃんはバリバリ、クルシュ様に下心ありますけどネ」と満面の笑みで言い放ちました。
- これに座敷の空気が凍りつき、記憶のないクルシュは微笑のまま硬直してしまいました。
- フェリスがすぐに「冗談に決まってるじゃないですか」と宥めたものの、クルシュは涙目で「私、今はうまく加護が使いこなせてないから、フェリスの色んな気持ちを見誤ってきたのかと……驚きました」とホッと胸を撫で下ろしており、かつての果断な態度からは想像もつかないような、いたいけで可愛らしい令嬢としてのギャップを覗かせていました。
③ 政治家としての「早とちり」とお茶目な撤回
第三章の王選開始前、お城の談話室にて「これだけ大勢の人が集まっているのだから、酒宴(飲み会)が開かれるのだろう。杯を傾け合い、腹を割って話そう」と、一人でやたらと男らしく荘厳な感じで飲み会の段取りを決めようとしたことがあります。
- しかし、フェリスに「私はお食事がたくさん運び込まれてるからそう言っただけですよ〜」とすげなく指摘されると、クルシュは驚き顔を浮かべた後、
- 「そんなわけで、私のさっきまでの話は取り消してくれ。恥ずかしいのでな」と、恥ずかしそうに顔を赤くしてあっさり発言を撤回しています。峻厳なだけの公爵ではなく、どこか抜けた可愛さを持つ主従の日常が垣間見えるエピソードです。
④ フーリエ王子の城下町での「銭湯」愛されエピソード
やんちゃで奔放だった彼女の愛しきフーリエ王子は、生前、身分を偽って(嘘をつけない性格のため、王都の人々はみんな気づきつつも黙っていた)よく城下町に降り、人々と絡んでいました。
- ある時、フーリエが「なんとかして城下町のみんなと裸の付き合いをしたい!」と頑張って、街の銭湯に突入し、衣を着ない状態で「衣を着ない王族が〜」と言い出して周囲を大慌てさせ、結局フェリスに連れ帰られるという愛すべき日常エピソードがあります。
- また、彼の死後、王都の王族が葬られる霊廟には、今でもフーリエを慕う城下町の人々からの花や贈り物が絶えず、常にいっぱいに満たされているという、彼の人徳を物語る心温まる裏設定も明かされています。クルシュの「龍との盟約破棄」の悲願は、このような「民から心から愛されていたフーリエ」という人間への愛着から、より強く熱いものへと昇華されたのです。